第13話 雨の中の1台の車
今から35年前、見知らぬ男性2人に助けられました。どこの誰だか分からないのですが、もし会うことが出来たらお礼を申し上げたいです。
小学6年生の時のことです。受験の日の朝だったのですが、私と母は家を出るのが少し遅れてしまったのです。当時は携帯電話もない時代でした。その日は、かなりの雨が降っていました。私と母は受験会場に向かうため、タクシーに乗ろうとしていたのですが、見つかりそうもありません。そんな中、母が顔見知りの車を見つけました。事情を話して乗せてもらおうとしましたが、あっさり断られました。その後、手当たり次第4,5台声をかけましたが、断られました。そして、次の車に声をかけたところ、「いいですよ。同じ方向に向かいますから。」私と母は急いで車に乗り込みました。
車に乗っていたのは中年男性2人でした。車には30分近く乗っていたと思いますが、途中話したことは覚えていません。目的地に着くと、母が「本当に有難うございます。助かりました。少ないですが、タクシー代の代わりです。」と言ってお金を払おうとしましたが、「僕が受験に通ることが私達へのお礼です。お金はいりません。僕、頑張るんだよ。」母が「連絡先だけでも教えて頂けませんか?」と言うと、「連絡先はいいですよ。」と言って去って行きました。去っていく方向を見ると、どうもこの車の目的地は全く違う方向のようでした。
私は、無事その学校に合格し、通い始めました。たった30分の出来事ですが、今でも覚えています。どこの誰だか顔も名前も分からないので、お礼を申し上げることは出来ないのですが、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。